しあわせ予報 2016 素敵な未来のための「新しいモノサシ」って? 暮らしを変える、サードウェーブ しあわせ予報 2016 素敵な未来のための「新しいモノサシ」って? 暮らしを変える、サードウェーブ

<スペシャルインタビュー>
デザイナー太刀川英輔さんに聞く
「イノベーションを生み出すもの」

建築、プロダクト、グラフィックといったデザインの領域を横断しながら、

数々のソーシャルイノベーションを生み出している太刀川英輔さん。

この特集を俯瞰する「鳥の目」を求めて、私たちは彼に会いに横浜へ。

太刀川さん、この「第3の波」は、どこから来て、どこへ向かうのでしょう?

 

 

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太刀川英輔(たちかわ・えいすけ)さん

株式会社NOSIGNER 代表取締役

1981年生まれ。慶応義塾大学大学院修了。2006年にソーシャルイノベーションを理念とするデザインファームNOSIGNERを立ち上げる。Design for Asia Award大賞、グッドデザイン賞はじめ受賞多数。内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」(2014年)では、コンセプトディレクターとして「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」というミッション策定に貢献。

 

 

サードウェーブは、消費という

「縁を切る仕組み」に対する逆襲

 

――今「コミュニティづくり」や「シェア」など、人々の間にソーシャルな関心が高まって、社会課題の解決を志す人が増えているのは、なぜだと思いますか?

それは消費社会によって、コミュニティが分断されてしまったことの揺り戻しだと思います。消費って「ひとりで生きていける仕組み」を提供するものですから。もともと人間は、1万年以上も自然環境などを共有する意識を持って、それを侵さず濫用せず暮らしてきたはずなのに、このわずか200年ほどの間に、個人の利益を最大化することが目的になって、そのツケをよそや次世代に回すようなことが横行したわけです。環境汚染とかね。価値を転換しなきゃというムーブメントは、そんな歪みに対する不安から来てると思います。

 

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「これほど寿命も延び、自由も財産も保証された恵まれた時代にも関わらず、その定常状態をどこか居心地悪く不安に感じている人は多いと思います」。自殺率がこれほど高いのも、そのあらわれでは、と太刀川さん。

 

 

――でもそんな価値観からのパラダイムシフトが、今起きている実感がありますよね。

世の中は質と量でできているわけですが、大企業や大資本といった既存の仕組みを「量」で覆すことは簡単じゃない。でも「質」で変革を起こすのは、アイデア次第でできて、元手も大してかからないんです。だからサードウェーブの本質は「ハック」(註1)。自分たちのクリエイティビティを武器に、このせちがらい世の中に抵抗しようというハッカーカルチャーなんです。だから西海岸で生まれるんですよ。ブルーボトルコーヒー(註2)もUber(註3)も西海岸で誕生しているのは、もともとヒッピーとかカウンターカルチャーの土壌があるからでしょうね

 

OLIVE

 

wikiシステムを活用し、東日本大震災の2日後に太刀川さんが立ち上げたサイト「OLIVE(オリーブ)」。食器や防寒具など被災地で足りない物資を自作する知恵を、誰もが自由に書き込めます。作るのも参加するのもスピーディでシンプルな点が突破力に。これもまた「ハック的」。

 

 

――これまでと違う道を探る、ある種の「逆襲」ですね。でも太刀川さんのような30代半ばの世代に、そういう人が多いのはなぜなんでしょう。

不況のロスジェネ世代(註4)であることと、インターネットの影響でしょうね。ウインドウズ95が出たのが中学時代だったから、いわゆるデジタルネイティブ。ツケを回されてる感覚があるところに、インターネットの力を知って「自分で価値を作ればいいじゃん」という意識が芽生えた世代なんです。

 

 

註釈

 

 

点を線でつなぐ戦略家が

新しい価値を作り出す

 

――太刀川さん率いるNOSIGNERも、さまざまなソーシャルイノベーションに取り組んでいますが、たとえば「オープンソースデザイン」という発想には驚かされますね。

知財というのも、現代になって生まれた「縁を切る仕組み」ですよね。社会にとって本当に価値のある発明が一企業に支配されてしまうと、それを広めないという選択もできてしまう。オープンソースデザインは、そんな仕組みに対する挑戦です。たとえばインターネットブラウザのfirefoxを展開するMozilla社のファクトリースペースを設計しましたが、プラスチックコンテナや物流パレットなど、身近で手に入る素材で作られていて、図面もダウンロードできるから誰でもマネして作れるんです。

 

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「オープンソースデザイン」とは、デザインの素材選びから設計にいたるまで、すべてのノウハウをシェアし誰でも再現できるようにするもの。

 

 

――アイデアをフリーでシェアしてしまうことで、「食えなくなる」という心配は感じませんか?

これからのデザイナーやクリエイターは、関係や状況といった見えない領域をデザインする戦略家でなくてはならないと思います。量ではなく「質」で変革を起こすことに集中すれば、ちゃんと食えますよ。経済学者ヨゼフ・シュンペーターによるイノベーションの定義は、「新結合」っていうんです。ゼロから1を作るんじゃなくて、すでにある1が集まって新しい価値を作る。「これとこれはくっつけられる」という発想でブリッジをかける人の役割が、これからすごく大切になっていくと思います。

 

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異質な人やものごとが混じり合うオープンな関係の中で、ブリッジ役を果たしながらイノベーションを生み出す太刀川さん。大きな全体性を思い描きつつも、アウトプットはミニマムに。瞬時に人の心に刺さるシンプルな記号に昇華させていくことがデザインの真骨頂です。

 

 

――日頃から、クリエイティビティやデザイン思考が必要なのは、デザイナーやクリエイターといった一部の人だけではないとも口にされていますよね。

人も消費されてしまう時代だから、ただ与えられた命題にだけ応えるということを続けていると病むんですよ。自分でなくてもいい仕事になってしまうので。受け取った対価分を満たして、さらにその期待以上の価値をどう楽しみながら提供するか、という心の持ちようが人を幸せにするんです。

 

 

――「自分で価値を生み出す」というセンスを身につけるには、どうすれば?

いいアイデアが出ないとか、価値の転換ポイントが見つからないと感じるとしたら、それは固定概念に縛られているからです。大切なのは「世の中を疑ってかかること」。たとえばこの湯呑に対して「これは器じゃなくてヘッドフォンなんじゃないか」と考えてみる。最初はそれは「うがった変な見方」でしかないけど、そういうトレーニングを繰り返していると、「これは重力で液体を保持する装置であり、だからこのサイズや曲線や材質なんだ」という本質を最短で見抜けるようになる。そうすると、じゃあ重力以外で液体をキープするには?という次のレベルに行けて、本質的なパンチを出せるようになるんです。そうやって自分で価値を転換できるというのが、デザイン思考の始まりです。

 

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コンクリート打ちっぱなしの現代的オフィスで働き、古民家で暮らす日々。「1日の中で約90年の時間を旅することが、思考のトレーニングにもなってます。イームズの椅子とか、名作と呼ばれるものは、そのどちらにも似合う。そんな時間を超えられるものを作りたいんです」。

 

 

加速する「社会の女性化」の中で

私たちにできること

 

――時代が変化していく中で、これから企業や組織が意識すべきことはなんでしょう?

これからは社会が女性化していきます。どういうことかというと、男性が構造的で一元的な世界観であるのに対し、女性はもっとフラットで多中心な網目状の世界観。インターネット自体がすごく女性的なんですね。社会原理が女性化していくとともに、女性が活躍する領域も増えていくんですが、日本は高度に構造化することで戦後を乗り越えようとしてきたせいで、ヒエラルキーが肥大化して硬直している。「部長と本部長って何が違うの?(笑)」ってことが起きるのは、そのツケが回ってるんです。

 

 

――確かに。ちょっと目からウロコな気がします。

多中心化の時流は避けられません。量じゃなく、新しい「質」に次々とトライする人たちを生み出すには、大企業もどんどん小さなチームを切り出して放出しないと。ワンタイムのトライで社運をかけて勝負に出る、なんてのはもうダメです。アイデアをたくさん世に問うてみてブラッシュアップする中で、共感が生まれたら強いので、それが見えたら企業を上げて取り組めばいい。

 

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「NOSIGNERにいる約10人のスタッフは、正社員だけど日給制です。うちの仕事以外に本業やライフワークを持っているヤツが多いから、週3日出社でもOK。彼らが経験し感じていることと、NOSIGNERのプロジェクトが出会ってシナジーが起きるのが面白いんです」。

 

 

――「競争のルールを覆す“ゲームチェンジャー”がもっと出てきてほしい」と普段から言われている意味がよくわかります。

それは新しい雇用のスタイルだったり、新しいビジネスだったりするかもしれない。本当に社会が変わるには、ソーシャル企業はまだまだ少ないので、もっとマジョリティになっていかないといけない。僕らはそんなゲームチェンジャーをデザインで後押ししたいんです。

 

 

――今、正しいことを求める気持ちって、潜在意識下でどこかみんなつながっているところがあると思うんですが、太刀川さんや今回取材した12事例のみなさんは、それを見える化して共感させられる力が強いですね。

社会課題って、見えているのは一部で、その水面下に顕在化していない氷山のようなものがありますよね。最初の出発点は誰か個人の思いだったとしても、それが個人に閉じてしまわないで、個人という「のりしろ」で多様な人とつながらないと、大きな氷山を顕在化させるところまでいかない。

そのためにも、少し遠くにある縁をいかに自分ごととしてとらえる想像力が持てるか。そんなことがこれからますます問われていくと思います。

 

 

20世紀が、「遠くの他者のことは考えなくていい」という「縁の短絡化」が進んだ時代だとすれば、この21世紀は、社会が再びひとつの「村」に近づき、見えないつながりに対する責任をひとりひとりが感じるべき時代。暮らしのサードウェーブは、そんな地殻変動のあらわれでしょう。フラットに多中心化するこれからの社会をよりよく変えていくのは、私たち個人の前向きな意志とアクションなのです。

さあここからは、色とりどりの希望の旗を掲げて、私たちの前を歩く人々をご紹介しましょう。

 

 

NOSIGNER

http://nosigner.com/ja/

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