しあわせ予報 2016 素敵な未来のための「新しいモノサシ」って? 暮らしを変える、サードウェーブ しあわせ予報 2016 素敵な未来のための「新しいモノサシ」って? 暮らしを変える、サードウェーブ

捨てる人と使う人をつなぐ
マテリアル・ワンダーランド。
<モノ:ファクトリー>

●暮らしを変えるサードウェーブ×リサイクル●

 

モノ:ファクトリー

 

地球環境のため、継続可能な社会のため、大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却が、私たち人間の使命であると叫ばれて久しい今。大量廃棄からユニークな方法で脱却を試みた企業があります。産業廃棄物処分業『株式会社ナカダイ』です。解体・分別の精度を極限にまで引き上げて、廃棄物から素材(マテリアル)としての価値を引き出し、展示・販売やワークショップなどを通して廃棄物の新しい使い方を提案。捨てる人と使う人を“つなぐこと”をビジネスにしたナカダイの挑戦をのぞいてみましょう。

 

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中台澄之(なかだい・すみゆき)さん

株式会社ナカダイ 常務取締役「モノ:ファクトリー」代表

1972年、東京生まれ。東京理科大学理学部卒業、証券会社勤務を経て、ナカダイに入社。ISO14001の認証取得や中古品オークションを行う市場の立ち上げなど、総合リサイクル業として事業を拡大。捨てる人と使う人をつなぐ新たなリマーケティングビジネスを展開し「モノ:ファクトリー」を創設。講演や企業研修、廃棄物に関するコンサルティング業務、イベントを手掛ける。

 

 

ゴミが減るという社会の喜びを

同じように喜べる企業になろう。

 

「廃棄物の量×処理単価=売上。ゴミを大量に扱うことでしか儲からない廃棄物処分業自体の仕組みを見直さない事には、ひとりの親として娘に誇れないと思いました」。

 

1999年、当時27歳だった中台さんは、それまで勤めていた証券会社から家業の産業廃棄物処分業・株式会社ナカダイへと転職しました。時を同じくして時代は環境元年へ突入。地球温暖化など環境問題の高まりとともに、さまざまなリサイクル・リユース法が制定されはじめた頃でした。

 

「ゴミが減るという社会の喜びを、同じように喜べる企業になりたい。そのためには『ゴミが減る=売り上げが減る』という業界の公式を打ち崩す必要がありました。時代の追い風もあり“量”で勝負していた今までから、“質”で勝負するこれからへの転換期だと思ったんです。最初に着手したのはリサイクル率の引き上げです。徹底した解体・分別を社内はもちろん廃棄物を排出するお客様にもお願いして回りました。私たちのところにゴミが預けられる前に、お客様の手元である程度の分別が済んでいれば、私たちの生産性が上がって環境負荷をより軽減できるし、お客様の廃棄処分コストも削減できる。クライアントの製造工場へ行って、ゴミ箱を置きまくりました。生産ラインのどこにゴミ箱を設置すれば、ゴミが必然的に分別できるかを提案するというコンサルティングに力を注いだのです。他の業界では当たり前に行われているお客様への提案という商取引は、私たちの業界では初めての試みだったと思います」

 

 

そもそもゴミって何だろう?

こんなに面白いモノはない。

 

次に着手したのは、解体・分別する“処理業”から“生産業”へのシフトだったといいます。リサイクル・リユースに次ぐ第3のリマーケティングビジネス「モノ:ファクトリー」の創設です。

 

ゴミとして捨てられたものを解体・分別して新しいモノ(マテリアル)として生まれ変わらせる。その工程を見られるように群馬県にある工場(廃棄物処分場)を見学可能にしたり、マテリアルを使ったワークショップを開催したり。東京都・品川のギャラリーやインターネットで展示・販売を行ったり、ファッション・建築・アートなどさまざまな分野のクリエイターとコラボして展覧会を行ったり。

 

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取材させてもらった品川ショールームには、廃棄物を解体・分別してマテリアルとして生まれ変わったモノの一部が展示・販売されている。学生からプロまで創作活動をする人たちがよく訪れるという。

 

「“そもそも論”に立ち返るのが私の思考のクセで、『そもそもゴミってなんだろう?』とずっと考えていました。現場(ナカダイ前橋工場)には、日に50トンもの産業廃棄物が運ばれてきます。その多くが製造工程のロスやミスで余った新品同様のモノ。それらを見ていると、誰かにとって価値のないモノは、他の誰かにとっては価値のあるモノなんじゃないかという思いが強くなっていきました。また、今大量に廃棄されているLANケーブルは、無線が当たり前の世の中になったらもうきっとお目にかかれない。そう考えるとゴミには旬があるなと。では、そもそも廃棄物処分業を営む我々って何だろう。時代や土地のプロフィールを背負った面白いモノ(ゴミ)を捨てる人と使う人を“つなぐ”ことができる唯一の職業だなと。モノ:ファクトリーは、私の“そもそも論”から生まれた新しいビジネスでした」

 

 

私たちの仕事は非効率でいい

非効率なほどいい。

 

「捨てるをデザインして使うを創造する」業界初のナカダイの試みは、多くの共感と注目を集め、マスメディアに取り上げられて、工場の見学者を増やしました。しかし、最初からとんとん拍子だったわけではありません。

 

「自分の仕事を誇れるようになりたいという私の理念で走り出した当初、現場はかなり混乱しました。それまでもポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、鉄でも数種類、アルミも数種類と業界の中でもかなり高いレベルで分別をしていました。それをさらに、キャップ、車輪、など“モノ”として捉えて管理しろと言われるんです。『は?なんで?』ですよね(笑)。私も今と同じくらい話せたら違ったんでしょうけど、廃棄物だからこその魅力的な形状、大量に存在することで魅力を増すものなど、個人の感性に頼る部分が多かったのでうまく説明もできなかったのです」

 

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群馬県前橋市にある工場は予約をすれば誰でも見学可能。金属やプラスチックなどさまざまな廃棄物を手作業で分別する様子や大型機械で破砕する様子を間近で見ることができる。

 

 

しかし、改革当初から今も従業員に一貫して言い続けていることがあります。それは「便利であることと効率的であることは違う」ということ。

 

「モノが生産されるときは効率的である方がいいのかもしれません。効率性は、安定的で大量に供給される安価なモノとなり、消費者に便利な生活をもたらします。でも、モノが捨てられるときは効率的でなくていい。私たちが非効率なまでにゴミを徹底的に解体・分別することが、環境負荷を軽減し、企業の廃棄処理コストを削減し、マテリアルを生産して人をつなぎ、場をつなぎ、機会をつないで新しい価値を生み出すからです」

 

 

理念やビジョンは

想像している何十倍も大切。

 

中台さんの理念で走り出した第3のリマーケティングビジネスが社内に浸透し、企業やクリエイターなどの共感を得て、メディアに注目されるようになるまで約7年。「この間、一番変わったのは何か」と尋ねると意外な答えが返ってきました。

 

「一番変わったのは現場です。現場の生産性が“異次元的”に上がりました。何倍とか生半可なものじゃない異次元です。私と同じように現場の従業員一人ひとりが、自分の仕事を誇れるようになった。そればかりか無名だった会社が有名になって周囲の見方も変わった。工場見学の人が増え、廃棄物のワークショップで指導員になる機会が増えて身なりが整い、仕事道具がキレイに並ぶようになり、動線が変わって、動き方が変わった。こうなると相乗効果で、現場からの提案と変革が次々と起こる。注目されること、モチベーションUPがこんなにも生産性を上げるなんて、まったく想定していませんでした。すると「ナカダイが凄い」ということになって、お客様が増えてゴミが多く集まって来ちゃうわけです。ま、それでもいいんです。うちに預けてもらえば、環境にもお客様にも社会にもいいわけですから」

 

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手染めの糸のように美しいこちらはLANケーブルの中身。マテリアルとして販売されています。LANケーブルを熱で溶かしたコースター作りは、ワークショップの人気コース。

 

 

想定外だったことがもうひとつ。それは言葉で説明しきれなくても感覚で共有できる人の多さだったそうです。

 

「捨てる人と使う人をつなぐビジネスをしたい言った時、すぐにピンと来てくれる人、興味を持って実際に動いてくれる人の多さに驚きました。デザイナーズウィークに出展してから、京都造形芸術大学、ヒカリエ、ハラミュージアムアーク、産廃サミットなど全てがクチコミで実現したコラボレーションです。私ひとりだったらたどり着けなかった結果に、他者の価値観が融合することでリーチすることができました。解体・分別という技術がある、その技術で生産したマテリアルがある。そこから先のビジネスチャンスは、他者との融合で生まれるものなのだと知りました。そして技術と材料があることよりも大切なのは、理念があることだとも確信しました。他者の共感が得られるのは、他でもない私の理念だからです」

 

 

ゴミを出すのは悪いことじゃない。

隠さずにどんどん開示するべき。

 

環境省が発表した平成24年度の日本の産業廃棄物は3億7900万トン。1キロ40円の処理単価で計算すると約15兆円。1年で15兆円ものお金とモノが捨てられていることになります。中台さん曰く、汚泥などを再利用できないもの差し引いて、マテリアルとして生き返るだろうお金とモノは約1兆円あるそうで…。

 

工場見学3

「現場(前橋の工場)が面白いんですよ。ひとりでも多くの人に来てほしい。見てほしい」と中台さん。捨てておしまいじゃない。捨ててから先のモノたちのストーリーを見ることによってモノとの付き合い方が変わるかも。

 

「私たちと同じことを全国の処分場がやったら、1兆円のお金とモノが世の中に還元されます。ゴミは地産・地消が基本です。だから全国の処分場に向けたコンサルティングも始めました。私たちと同じビジネスモデルを展開する処分場との取引で廃棄処理コストを削減できた企業は、浮いた費用で人や地球にいいことをすればいい。マテリアルとして生まれ変わった素材は、アートやコミュニケーションなどの材料として1兆円以上の価値を生み出すでしょう。ゴミを出すのは悪いことじゃありません。隠すべきことではありません。生産者が消費者の生活を支えるために頑張った証です。だからモノの最後を私たちに託してほしいんです。具体的に言うと捨てるタイミングを開示してほしい。ゴミという名のマテリアルがいつ入手できるかがわかれば、それを欲しい人にすぐつなぐことができます。もったいない精神は要りません。価値あるモノ、また新たな価値を生み出すモノとして、ゴミを私たちに預けてほしいと思っています」

 

 

 

ナカダイ「モノ:ファクトリー」で見つけた

素敵な未来をつくるヒント

 

誰かにとって価値のないモノは、
他の誰かにとって価値のあるモノ

 

そもそも…ゴミって何だろう?中台さんの自問自答が導き出した答えは、“誰かにとっては価値のないモノだけど、他の誰かにとっては価値のあるモノ”でした。そして、捨てる人と使う人を“つなぐ”のが自分たちの仕事であると定義し直したのです。躍進的な新しい技術を取り入れたわけではなく、価値観や常識を定義し直したことが、新しいビジネスを生みました。中台さんは登山に例えて言います。「海抜ゼロメートルから登らないと、その山を登ったことにはならない」。そもそも…とゼロに戻って定義し直すことが、新しいビジネスを生みだすヒントになりそうです」

 

 

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