Woman Smile Report 女性たちの暮らしと意識をレポートします

「ウーマノベーション」日本を変える、5つの女子力。 01

「おもてなしの力」が日本を変える。

2014/12/28

 

2020東京オリンピックの招致活動で注目された「おもてなし」=
日本女性特有の気配りや優しさが、感動のサービスを生み出す源流に。

 

2020年東京オリンピック招致活動で日本のプレゼンテーションの核となったのが「お・も・て・な・し」。それは訳されることなく日本語のまま世界中の人々に届けられました。祖母や母から教えられてきた周りへの思いやりや助け合いの精神は、日本女性が昔から自然に持ち備えてきたもの。「おもてなし」の語源は「モノを持って成し遂げること」。相手のことを想い、心を込めて準備したり、配慮すること。奥ゆかしい日本女性はおもてなしをしたことすら相手に感じさせまん。この精神は昨今、接客業に限らず、さまざまな業界で働く女性によって応用されています。形だけのサービスも、過剰なサービスもいらない時代。相手の気持ちを上回る、ひとさじのおもてなしの力は、これからの企業のあたたかな体温となるでしょう。この章では、女性ならではの気配りや優しさで、男性中心だった業界に新風を巻き起こし、感動のサービスを提供している企業と女性をレポートします。

 


 

街を駆ける「佐川女子」。 おもてなしの心で宅配便を変える。

佐川急便株式会社 浅川杏里さん(32) 東京営業所 東京駅八重洲口サービスセンター

 


 

街で見かけるチャーミングな笑顔の「佐川女子」。ふだんの挨拶から、ごく自然にはじまるコミュニケーションや気配りが「おもてなしの力」と変わり、男性社会だった運輸・物流業界に新しい風を吹かせています。

佐川女子は体育会系だけにあらず。主婦や学生も働きやすい環境へ。

東京駅付近の佐川急便サービスセンター。ビジネスマンたちが行き交う町中を颯爽と駆け抜ける佐川女子、テキパキと作業を進めています。スタッフ6名のうち4名が女性。体育会系の女性が多いのかと思いきや、司法試験にチャレンジ中の文系女子学生や留学生も。センター長を務める浅川杏里さんは、こちらの集配センターの管理と従業員の管理、集配コースでの配達や集金、「あんしん私書箱サポート(私設私書箱サービス)」などを担当。オフィス街に咲く花のように町の人たちに笑顔で挨拶、笑い声が響きあう職場環境を、浅川さんは丁寧に育んできました。
 浅川さんが佐川急便に入社したのは9年前。当時、東京営業所初の女性ドライバー。どこに集配に行っても「え、女の子なの?」と驚かれたり、珍しがられたり。体力には自信があり、新しいものに挑戦することも好き。しかし、体力勝負でもある現場の男性スタッフは「どう扱っていいのかわからない」と困惑気味だったとか。男性との圧倒的な力の差や、スピード差のある現実を、浅川さんは「意地でも乗り切ってやる!」と奮闘。女性の上司がいなかったので、壁にぶちあたるたびに周りに相談しながら、乗り越えていったと語ります。「ある時、“助けてくださいと男性にお願いすることは悪いことじゃないんだよ”と男性上司に助言をもらいました。できないことを受け入れ、“認める”ことを覚えてから、働き方が変わりました」。浅川さんは、自分にできることを伸ばし、個人宅の多いエリアを担当していた時には、ちびっこやお年寄りの人気者に。「おばあちゃまが荷物を持っていたら、台車に乗っけてあげたりなど、地域に密着したコミュニケーションを楽しんでいました。佐川のユニフォームを着ているからこそ、町の人たちも安心して私に声を掛けてくれますし。佐川の○○さん、と個人ネームで覚えてもらえば仕事の幅も広がります」。

 


 

「さがわワクワク委員会」で全国の佐川女子をつなぐ。

 

運輸業界は男性中心、事務職以外の女性活用が進みにくいのが実情。しかし2011年、佐川急便では「業界のイメージを変えること」「女性が収益の30%を担う体制を構築すること」という2つのトップメッセージが下されました。2011年当時の女性社員は全体の15%。その命を受け「さがわワクワク委員会」が発足、“女性から選ばれる会社”にするための具体策が実行されました。「荷物が小型化しているコースはないか?」「時間選択で働くには?」「早朝や夜間の配達は女性ドライバーが良いのでは?」など固定概念を払拭し、女性力を活かせる仕事環境を創出。そういった背景があっての「佐川女子」の出現だったのです。「数年前までは女性には無理だ!という社風でしたが、今は男女問わずチームで仕事をしていく体制に変わりつつあります」。ただし、女性活用について頭では解っていても、心が動いていない男性が多いのが現実だとか。と同時に、若い世代は性差をフラットに捉えているため、性差というより世代差では?という意見も。男女差、世代差、国の差、能力の差を問わず、“おもてなしの心”を持つことがこれからは必須。「“佐川急便=やさしい人の集まり”というイメージに変えていきたいです」と浅川さん。「おもてなし」とは、周りへのきめ細やかな愛。女性たちの気配りから生まれた小さな小さな革命が感動のサービスを生み出し、新しい日本の力となるでしょう。

 


 

<働く女子に贈る明日へのヒント>

主婦や文系女子のアルバイトも増えている佐川急便。現実問題、体力などの性差をどう補っているのでしょう?「ルールは決めていません。ルール化するとしばられるので、気付きあえる環境づくりが大切」と浅川さん。「困っていることがあれば上司に直談判しますよ。子育てや介護をしながら働く女性も増えるので、後進たちの道をつくってあげたい」。男性側と女性側の気持ちを通訳して、ボトムアップ。ひとつひとつ最善の道を探すその姿勢こそが、新しい佐川の人間力といえるでしょう。

細やかな女性の目線と気配りで、世界の住環境を心地よく。

大和ハウス工業株式会社 加藤佳子さん(29) 奈良支店 集合住宅営業所 工事課(一級建築士)

 


 

建築現場と言えば、ヘルメットに作業服という男性社会。そのイメージを覆したのが、建築業界で働く、いわゆる「けんせつ小町」たち。今後の企業成長に不可欠と経営計画の中にも盛り込まれた女性の力が、いま、働く環境にも、住宅の未来にも大きく影響を与えてきているようです。

 

現場をまとめる鍵は熱心な想いと細やかな気配り。

 

かわいくメイクもするし、お洒落も大好き。一見普通の女の子である加藤佳子さんは、実は建設工事の現場監督を務める、「けんせつ小町」。建物の設計をしたくて同社へ入社したものの、配属通知に書かれていたのは「施工」。「これって現場?と、戸惑いましたね。入社を辞めようとも思いました」と加藤さん。しかし親からの一言で、やってみるだけやってみようと、現場で働く道を歩み始めました。まずは教育担当の先輩に付いて現場を学ぶ日々。1年後、やっと自分の現場をもたせてもらった時、見ているのと実際にやってみるのとでは違うことが多々あると気付きました。「この時、もっと勉強しないと、先輩からもっと学ばないと、とエンジンがかかりました。話し方ひとつ、お願いの仕方ひとつでも快く仕事をしていただけるかどうか変わるため、しっかり勉強したいと思いました」。現場監督は、いわゆる現場での指揮者。言葉がけひとつで、みんなの動きが左右されるもの。加藤さんの細やかな気付きと学ぶ姿勢からは、現場の人たちへのおもてなしの心が垣間見えます。奈良支店初の賃貸住宅の女性工事担当者であったこともあり、すぐに顔を覚えてもらえ、みんなにかわいがられた加藤さん。「散乱しがちな現場をさりげなくササっと片付けたり、工程表をわかりやすいように書いたり。彼女がいると現場の雰囲気が明るく良くなりますね」と現場の方は語ります。「ふわっとしているけど、責任感も芯も強い」と言われる加藤さんが仕事に向かう姿勢は、真剣そのもの。「休日でも工事現場を目にすると気になってしまう」というほど、彼女のやる気は留まるところを知りません。

 


 

女性が活躍しやすい環境づくりの部署を設置。ガイドブックも作成し、男性の意識改革も推進。

 

 同社では、会社のさらなる成長のためには「女性の活躍が不可欠」と、いち早く女性の力に着目し、2005年から女性活躍推進に積極的に取り組んできました。2007年には、女性が活躍しやすい職場環境づくりを目的とした『Waveはあと推進室』を立ち上げ、働くうえで壁となるライフイベントを乗り切って長く働けるよう、100万円の次世代育成一時金支給や、育児休業者職場復帰サポートプログラムなど、数多くの充実した支援体制を整えています。その結果、多くの女性社員が時短や時間有給などを活用し、家庭と仕事を両立しています。さらに、女性社員の意識啓発を行うフォーラムやキャリア研修など、能力開発も積極的に行っています。「こうした研修で、全国にいる女性の工事担当者の話を聞いて同じように頑張っている人がたくさんいると思えると、励みになります。日焼け対策など、女性ならではの悩みを話したりもしますよ(笑)」と、加藤さん。また、女性の働く環境を整えるだけでは、組織は大きく変わりません。ダイバーシティ推進の意義や女性雇用でのQ&A、実際に活躍している女性の紹介などが掲載されている『ダイバーシティポジティブアクションハンドブック』を発行し、役員を含めた全社員の意識改革も進めています。こうした動きから女性の活躍の場が広がり、提供する商品に変化が現れているそう。女性目線で設計された住宅や設備、女性が安心して暮らせる賃貸住宅の開発、化粧品会社とのコラボレーションなど、女性開発チームからのアイデアとおもてなしの心で、今まで思いもつかなかった商品が生まれ、支持を得ています。2020年にはグループ全体で500人の女性管理職誕生を目指し、世界へと幅を広げる同社。女性たちの細やかな気配りが、おもてなしの心が利いた未来の住環境にもつながっているようです。

 


 

<働く女子に贈る明日へのヒント>

「結婚や出産を経た女性の目線、気配り、実感はとても重要になってきている」という住宅業界。「実際に子育てしながら復帰している現場監督の先輩もいらっしゃるので、そういう方がいるだけでも安心。理想像が見えるし、道を切り拓いてくださっているので周りの理解も得やすい」と、恵まれた制度や環境で働けている現状を語る加藤さん。これまで男性社会だった場でも、女性の力や強みが自然に活かせるステージが広がっています。

愛情は細部に宿るから。細部にまで目をつけ、行動につなげていく。

en+株式会社 杉本聡恵さん(42) 医療福祉分野のライフ環境コンサルタント 作業療法士

 


 

「ここ、老人ホームよね?」と確認せずにはいられないほど暖かく優美な空間。これまでの高齢者施設のイメージを覆したこの建築・環境デザイン計画全般を手がけたのが、杉本聡恵さんです。作業療法士や企画運営などをしていた経験から、さまざまな工夫を盛り込みました。「気分が高まり“頑張ってやってみよう”と心を動かせるようにしたくて」。例えば鏡は、お洒落なものが設置されています。「そんな鏡に映る自分を見ると、寝間着を着替えようかな、お洒落してみようかなと自発的な気持ちが湧いてくるのです」。他にも、屋上庭園のおさんぽコースには数字を刻んだり、一番奥にお地蔵さんを置くなど、目標を持って歩きたくなる工夫がたくさん散りばめられています。「時に、歩かせない方が介護が楽なので、つい歩かせることに意識が向かない施設が実は多いんです。でも自発的に動くようになれば、介護する側にもメリットがある。目的を持って、楽しく自発的に動けるようになればと考えました」。細部に目を付け、行動につなげていく杉本さんの想いやアイデアは、お年寄りに対するおもてなしの気持ちでいっぱい。「愛情は細部に宿ると考えていますから」と杉本さんは語ります。

 

生きる力を引き出すために。すべては“喜ばせたい”心情から。

 

 朝4時に起きて仕事を始める杉本さん。三児の母として多忙を極める中で、早朝が一番仕事ができるといいます。「仕事と家事と子育てのリズムをつかむのは難しかったです。失敗もたくさんしたけど、失敗を失敗とは考えず“成功までの過程”と考えています」。産後3日目には病院で仕事の打ち合わせを始めたり、時には子供を抱きながら本のページを足でめくって勉強したり。仕事はもちろん、とにかく勉強熱心です。「スキがあれば勉強したいんです。携わる環境を通して喜んでいただくためには、それなりの勉強が必要ですから。すべては、喜ばせてあげたいという心情から始まっています」。このような思いに行き着いたのは、ひとつのきっかけがありました。「研修で訪れたイギリスの発達障害施設では、建築家だけではなく、哲学者や医師、心理学者、造園家などいろんなプロフェッショナルが集まり、質の高い魅力的な環境が創られていました。生きる力を引き出し高めるためには、心に働きかけることができる“生き生きとした環境”“治癒力のある環境”が必要だと痛感していたので、そういったことが日本でもできればと、医療福祉の環境づくりに目覚めたんです」。その実現に向かって現在、「デザイン性」「事業性」「医学的根拠」の3つに重点をおいた医療福祉分野のライフ環境コンサルティングを行っています。この3つの総合的な観点で動いているところは、今の日本にはありません。「相手のことを考えて、暮らし全体を良くしてあげたいなと。良質の環境を日本に広めるのが私のミッションです」。

 


 

<杉本さんの「おもてなしの力」の鍵>

「おもてなしの心」とはと尋ねてみると「気持ちや優しさだと思います。優しさは女性の強さ。あるCMで“優しいことは強さ”というコピーがあって、共感しました。まさにこれかなと。優しさが強さを生み、心が人の心を動かし、日本を変え、時代を変えると信じています」。

客室乗務員を経験した気付きを活かし、新しいサービスを提案。

Peach Aviation 株式会社 斎藤葉子さん(32) アドバリュー・クリエイション準備室 アドバリューデザイナー

 


 

データからだけでなく、リアルな状況を感じて、伝えて。

 

ピンク色が「かわいい」と評判の、“cute&cool”な客室乗務員の制服に身を包んでいた斎藤葉子さん。今はキリッとしたビジネススタイルに変身。2014年に新設された「アドバリュー・クリエイション準備室」に社内公募制度を活用し、転部しました。主な業務を尋ねると「毎月発刊している広報『Peaching』の発行と、“マチベーション(町おこし+イノベーションの造語)”です」と斎藤さん。このマチベーションとは、これまでの輸送メインのサービスだった航空会社で、就航地の街おこしを地元の人とコラボレーションしながら進めていくというもの。「その街の良さや、街の人も気づいていない魅力を私たちが引き出し、発信していく。そうすることで、飛行機に乗らない人にも情報や新しい出会いを提供することができて、Peachに関わる人、街全体をハッピーにして、ライフスタイルに新たな価値ができればと考えています」。これまでの航空会社とは違うサービスやスタイルで、航空業界のイメージを変えてきている同社。乗客だけでなく、地域や多くの人々の暮らしを考えたこの新しいおもてなしのサービスに、期待も高まります。

 


 

<斎藤さんの「おもてなしの力」の鍵>

Peachでは、低運賃を提供するために機内エンターテイメントがないなどの物理的制約があります。そこで「このお客様はどういう気持ちで乗っているのか、今何を考えているのかと想像し、フレンドリーに接するようにしながら、私たちの対応でお客さまに喜んでいただくよう心掛けていました」。相手の状況を思い、言葉を選ぶ。おもてなしは、そこから始まるのかもしれません。

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