Woman Smile Report 女性たちの暮らしと意識をレポートします

「ウーマノベーション」日本を変える、5つの女子力。【Q&A】

内田由紀子先生に10の質問。新しいしあわせのかたちとは?

2014/12/28

 

働く女性のパワーが起こす、社会のイノベーション。それはきっと、未来の「しあわせ多様社会」への第一歩。ご自身も子育てをしながら研究に取り組み、「こころとしあわせの関係」を見つめている京都大学の内田由紀子先生に聞きました。「先生、新しいしあわせのあり方って、どんなものですか?」

 


 

内田由紀子さん
京都大学「こころの未来研究センター」准教授(社会心理学・文化心理学) 
2003年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)にして、現在5歳児の母。アメリカミシガン大学やスタンフォード大学での客員研究員時代には、遠距離結婚生活を送る。2008年京都大学「こころの未来研究センター」に助教として着任、2011年より准教授。2010年から2013年まで内閣府「幸福度に関する研究会」委員。

Q01 女性の活躍推進が叫ばれる一方で、独身女性が婚活に走ったり専業主婦願望が高まるなど保守化傾向も見られるのはどうしてでしょう?

A 働きたい女性に希望を与えられていないのが問題です。

実はリーマンショック後、経済停滞期のアメリカでも似たような現象が起きていたんです。働く女性像が推奨されたにも関わらず、女性にパイが与えられなかった結果、「働いても満たされない」という価値観が広まって、一部で性役割分担の保守化傾向が生じたと言われています。
現在日本では、人件費が限られている中で、これまで通り長時間労働型の男性社員の雇用枠を確保したままで、女性の雇用は補足的に追加する程度だから、正社員への道は厳しく、派遣や短期雇用の枠しか空いていないというケースが多いですね。自分が望む働き方は叶えられそうにない、というあきらめが、「専業主婦になるほうがいい」という選択肢につながるのではないでしょうか。1000万円人件費があったら、それでどんな人材をどんなバランスで何人雇うのか。まさに企業の意思決定が問われるところですが、そこがまだ女性の意識改革とかみ合っていないと感じますね。

Q02 女性管理職を増やそうという動きがある反面、当の女性自身は管理職を引き受けるのに消極的。このギャップを埋めるにはどうすれば?

A まず男性管理職の働き方から見直す必要があります。

管理職になるとワークライフバランスが崩れるというイメージが強すぎるのだと思います。家庭を顧みず、身を粉にして働いているという男性管理職のモデルしか見えないため、昇進と引き換えに失うものが多すぎると感じる女性が多いのでしょう。まず男性の管理職の働き方から変えていかないと、と思います。「役立つスキルや専門性は身につけたい」と考える一方で「昇進や出世にこだわらず生きていきたい」という「ゆるキャリ派」が、現在働く女性の大半を占めていますが、このままでは「ライフ」の部分を犠牲にしながら働く人しか管理職になれず、会社の中で二極化が進むばかりで、抜本的に何も変わりません。管理職の利点とは、企業を変える力を持つということ。ゆるキャリ派こそ管理職になって、定時で終わる働き方ができる環境に変えていくべきですし、そういう人を管理職に据えていく企業の英断は必要ですね。

Q03 男女雇用機会均等法施行から30年。働く女性たちの意識とそれを取り巻く環境はどう変わりましたか?

A  人々の意識変化に比べ、多様な働き方の提示はまだこれから。

男女雇用機会均等法の第一世代をはじめとして、40代の働く女性たちは、強い意志をもって男性社会に飛び込んで、頑張ってきた人たちが多いと感じます。一方、今の20代は、仕事を競争や闘いの場と捉えてはいません。無理して頑張って働くより、仕事は仕事として割り切ったうえで、自分らしくプライベートを大切にしたいというふうに変わってきていますね。ただ、若いうちから自分の枠を狭めて考える傾向があるために、向いていないと感じるとすぐに辞めてしまう人が多いのは気になるところです。会社はひとつの通過点だというアメリカ的な考え方が芽生えつつある一方で、まだ中途採用が少ないなど、企業側の体制がその変化に追いついていません。意識の変化と、働き方の変化がうまくかみ合っていないせいで、バリバリの正社員と、非正規雇用者との間で二極化が進み、多様な働き方のモデルが提示できていないと感じます。

Q04 女性の活用促進には男性の意識改革が不可欠ですが、その意識改革を妨げているものはなんでしょうか?

男性の想像力が欠けているところは多々ありますね。

女性はマルチタスクが得意で、仕事しながら家事の段取りを考えていたり、PTA行事に出ながら明日の仕事のことを考えていたりしますが、
男性は大事なプロジェクトを抱えている時は、家庭のことは丸投げにしがちです。マルチタスクで仕事も家事も育児もこなす経験が乏しいから、その苦労も想像がつきにくいのだと思います。育休を3年に、というのも、それがどれだけ職場から隔離されて不安にさいなまれることか、男性自身がわが身に置きかえて考えないのでしょう。依然として「女性は子供のために喜んで自己犠牲を払うだろう」という、聖母的な女性像を求める願望も根強いと感じますね。若い世代は、男性も育児参加は当然という意識に変わってきています。子供の成長を見過ごしてしまうのはもったいないし、家庭内の信頼関係欠如にもつながります。ワークシェアリングの発想で、男性も週1~2回は時短・在宅勤務などを取り入れ、家事や育児に参加してほしいですね。

Q05 内田先生の出産後は、ご主人が1年主夫生活を選択されました。夫婦がお互いに納得して仕事と家庭を両立するために心がけていることはなんですか?

お互いのキャリアプランを理解し、2人3脚で考えます。

夫は「夫婦の生産性もキャリア達成も、合計で考えよう」と考える人。子供ができたことでお互い100の仕事量が80になったかもしれないけれど、ふたり合わせて160ならひとりよりずっといい。お互いのキャリアプラン・目標についてもよく話し合ったうえで、夫婦が長く元気で一緒に頑張れるように、無理して100の仕事をこなそうとしている時はブレーキをかけ合うようにしています。夫は子供ができたら1年の育休を取ると、早くから職場で公言していましたし、そんなことで干される職場だったら働く価値はないとも言っていました。男性の同僚からは、自分もやってみたいけれど評価が下がるのが怖くてできない、でも応援したい、という声がけっこうあったそうです。夫は自分が先駆けとして認められたら、周囲もやりやすくなるだろうと考えたようですが、実際その後、育休を取る男性も出てきたそうで、よかったなと思いますね。

Q06 働く母であることが、先生自身にプラスになったことがあるとすればそれはどんなことですか?

集中力が身について、視野も広がりました。

時間が限られる分、集中力はすごく身につきました。子供が生まれる前は夜中まで残業することもしょっちゅうでしたが、今は6時には終わらせなければならず、やるべきことを分別・選択して集中するから、生産性はそれほど落ちていないんです。アメリカの大学で働いている時に見た、短い労働時間で素晴らしい業績を上げている女性研究者たちの姿にも勇気づけられたと思います。タイムマネジメントを意識するようになってからは、オンオフの切り替えも明確になって健康的になりました。本来人間って、フル回転で12時間も働けないはず。「夜10時まで時間がある」と思うから、いくら本人は100%やってるつもりでも、どこかで漫然と効率が落ちているところがあるはずなんです。子供ができてから、地域のコミュニティにも参加するようになって、人との出会いが広がりました。これまでと違う視点を持てたことは、自分自身の研究にもとても大きなプラスになっています。

Q07 長時間労働の一方で、労働生産性の低さが問題になっている日本。今後、ワークライフバランスを追求するうえでの課題はなんでしょうか?

習慣を改め効率のよい働き方めざし、トップダウンで英断を。

人間が集中できる時間は限られていますから、長時間労働を前提にして習慣化してしまった
パターンを変えなければ生産性は上がりません。リミットを決めて働き、それで業務が片付かないのであれば、一人でこなせる作業量を超えているということなので、雇用を増やすべきだと思います。未婚者や独身者が増え、男性も家事や介護を担わなければならない中で、これまでの
ような長時間労働では生活が成り立ちません。そもそも歴史的に見ても、夫が外で働いて、専業主婦が家庭を支えるという分業が成り立って
いたのは、大正時代から戦後の高度経済成長期にかけてのごく短い期間の話なんです。空気を読むことが求められる日本文化の中で、個人の裁量で自発的に状況を変えられる人は少ないはず。やはりトップダウンで長時間労働を禁じ、育休取得も義務付けるなどの決断が必要でしょう。それを実行して生産性が上がった事例が出てくれば、自然と人々の考えも変わるはずです。

Q08 「ロールモデルの不在」が働く女性の悩みとして挙げられることが多いですが、ご自身の経験もふまえてどう思われますか?

A 肩肘張らず仕事も人生も楽しむ女性像が増えるといいですね。

これまで働く女性が、ワークライフバランスや育児との両立を語るとなると、いかに大変か、という苦労話が多かった気がします。もう少しゆるく、暮らしを楽しみながら仕事の務めもきちんと果たしているロールモデルが増えて「そんなに恐れるようなことじゃないよ」というメッセージが発信できるといいですね。私が尊敬する女性研究者たちは、自分の人生を愛して楽しんでいて、無理している感じがまったくなかったんです。だから私も「子供もいて研究も続けて楽しい」ってことを積極的に発信していこうと思っています。仕事も家事も完璧にこなすスーパーウーマンのような人の話を聞くと、つい自分と見比べて「私はダメなんだ」と卑下してしまうケースもあります。他の人の意見やライフスタイルは参考になりますが、幸せの形は多様なのだから、完璧主義を捨てて「これでいいんだ」と自分の生き方を絶対評価することも大切だと思います。

Q09 女性の起業にも注目が集まっていますが、女性経営者が増えることで期待される効果はどんなものですか?

旧習に囚われず、多様な働き方を叶える女性起業家に期待大。

女性経営者がトップダウンで、長時間労働の壁を破るような仕組みづくりが進むといいですね。女性が働きやすい環境とは、つまるところ多様な人が働きやすい環境です。女性の方が、固定化した価値観に囚われていないため、新しい働き方への理解も先取りしています。これまで経済成長を支えてきたのは、馬車馬のようにわき目もふらず働いてきた男性たちですが、ふと定年後に立ち止まった時に、家庭内にも居場所がなく行き場を失ってしまうというのは、あまりにもかわいそうです。やはり男性も女性も社会に出て働くと同時に、私生活も楽しめるようタスクをシェアしていかないと、日本は沈没してしまうのではないでしょうか。女性の起業が増えることを含め、さまざまな自己実現のあり方が広がることが必要だと思います。企業内で多様性を実現するには、成果主義のようにひとつの評価軸に偏るのではなく、パーソナリティを含めた、360°評価を取り入れることも大切ですね。

Q10 これからの「新しいしあわせのかたち」に向けて働く女性の力が社会をどのように変えていくと思われますか?

暮らしの原点を見つめ直し、一極集中・同質化から多様性へ。

人生は仕事だけではありません。食べる、育てる、楽しむ、という原点を身近に感じられる暮らしを、誰もがそれぞれの場所で叶えらる、というのが成熟した国の持続可能なあり方で、そこに女性が果たせる役割は大きいと思います。 東京一極集中が進んだのは、働いて消費し自己実現する、という憧れのモデルが都会でないと叶えられなかったからですが、人々はそこに疲弊を感じて、ライフスタイルを見つめ直そうとし始めています。また、男性が東京のオフィスに一極集中して長時間労働して得たお金が、日本中に分配されてみんなが生きていける時代ではもはやなくなっています。IT技術の進化によって、この場所じゃないと働けない、というケースが減っている今。働く女性が増えることは、男女共同参画という意味だけではなく、多様な働き方を受け入れ、日本の新しいしあわせのかたちに近づく大きな一歩となるのではないでしょうか。

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